退役間近のボーイング 737-500
ANAグループでは、約25年にわたって運航してきたボーイング737-500型機「スーパードルフィン」の順次退役を進めており、2020年上期をもってグループ傘下ANAウィングスでの運航を終了する。これに伴う退役記念イベントの第一弾として、9月28日に福岡空港にて「ファン感謝祭」を実施した。イベントは事前に告知され、応募総数930組のなかから抽選された26組60名のファンが招待された。ANAグループのボランティアスタッフら約120名の歓迎を受けた参加者らは、機内食の夕食をとりながらセミナーを受講、その後実際に機体に搭乗して夜の福岡空港でのトーイングを体験、さらに機体内外を自由に見学し、記念撮影をしたり乗務員に質問したりするなど、思い思いの時間を過ごした。
ANAグループでボーイング737-500型機が導入されたのは1995年7月。その導入にあたって愛称を社内公募し、集まった1408点のなかから選ばれたのが「スーパードルフィン」だ。この名前には、胴体が短く丸みを帯びたフォルムや、大空をスピーディに飛び小回りもきくところなどが、水中をスムーズに泳ぐイルカをイメージさせることから選ばれたものだという。ANAグループではこれまでに737-500を計25機導入し、主に地方路線に投入してきたが、現在では退役が進み、残存する機体は4機となっている。
ファンにとって夢のようなひととき
実際に運航している機材を使用するため、ファン感謝祭は18時より受付を開始、夜の開催となった。受付後、バスでいったん空港を離れてアクシオン福岡へ移動、機内食を食べながら737-500に関わったグランドスタッフや整備スタッフ、パイロットらによるセミナーに聞き入った。なお、提供された機内食はスーパードルフィンと特別なかかわりがあるものではない、ANAのサービスを体感してもらうために特別に用意されたという。
グランドスタッフは福岡空港の旧第一ターミナルにスーパードルフィンがずらりと並ぶかつての光景を懐かしみ、オープンスポットのため機体に乗客を誘導する際に傘を渡したり人工芝を敷いたりしたこと、雨のなかエンジンカウルのイルカのイラストをきれいに拭う整備スタッフの姿が見られたことなどを話した。
かつて学校の教師になりたかったという整備スタッフは「2次限目の授業をはじめます」とトークを開始。グランドスタッフの話を受けて、「オープンスポットで運航される737は、お客様が降機後にエンジンのドルフィンのイラストの前で記念撮影をされることが多く、いつもきれいにしておくように心がけていました」と語った。また、映像なども使用してCFM56エンジン音についても説明、最後に「エンジンの地上高も低く、アイレベルで整備できる飛行機です。それをこの後の機体見学でも実感してみてください」と授業を終えた。
はじめて操縦したジェット機が737だったという現役機長は、737シリーズの歴史や機体の価格などを解説。軽妙なトークで会場は何度も笑いに包まれた。約50年もの長きにわたって改良が続いている旅客機は737シリーズだけと説明、「私も定年が近くなってきましたが、最後まで737-500をしっかり飛ばしていきたいと思います」と締めくくった。
実機に乗ってタキシングを体験
セミナー終了後は再びバスに乗り、アクシオン福岡から空港内の駐機スポットに移動した。使用機材はJA305K。737-500の最終製造ロット4機のなかの1機だ。参加者は受付時に渡された特製搭乗券に記載されている座席につき、安全運航のアナウンスに従ってシートベルトを着用、21時18分にトーイングが開始された。APUにより電源が供給された機内は滑走路に向かってタキシングしているのとまったく同じ感覚で、いまにも離陸滑走をはじめそうな雰囲気だった。
トーイング中、機長は機内アナウンスでスーパードルフィンでの思い出話を披露した。737は短い滑走路でも運航できるジェット機として離島を中心に活躍していてきたことについて触れ、そのなかでも「旧石垣空港は滑走路が1,500mしかなく、737-500でも余裕のない運用をしていました。通常の離陸とは異なり、滑走路の端で停まったままエンジン出力を100%にして、それからブレーキを離して、ロケットスタートのような離陸をしていました。短距離離陸の方法もこの飛行機で学ばせてもらいました」と語った。トーイング中には福岡空港への着陸便が相次ぎ、滑走路の横断許可がなかなか下りず時間だけが経過していったが、その際にも離島便ならではの教師と生徒たちの別れのシーンをコクピットから見たことなど多くの思い出があることがアナウンスされ、乗客らは機窓に広がる夜の空港を見つめながらもしんみりと聞き入っていた。
スーパードルフィンを満喫
21時53分、駐機スポットに到着。ここではANAのボランティアスタッフらが横断幕を掲げて手を振り、機体の到着を歓迎した。この後、参加者らは2グループに分かれ、一方のグループは機外で、もう一方のグループは機内でそれぞれスタッフから話を聞き、順次各部を見学した。
機外には投光器が置かれ、2基あるエンジンのうち1基はカバーを開いた状態で展示、整備クルーから説明を受けながらつぶさに観察できた。また客室下のカーゴドアも開かれ、その中に入ることも許可された。子供を肩車し、親子で主翼を触る家族連れの姿もあった。アイレベルで見学できるスーパードルフィンは子供たちにとっても貴重な機会になっただろう。
機内ではコクピットに入ってシートに座ったり、ギャレーで説明を受けたり、フライトクルーのジャケットを着て記念写真を撮ったり、客室乗務員が行う機内アナウンスが体験できたりといった体験ができた。
最後に、機体の前で参加者全員での記念撮影。予定された時間を30分以上超過し、23時にさしかかっていたが、参加者が満足するまで楽しんでもらおうという気づかいがスタッフからは感じられ、終始和やかなイベントとなった。
なお、退役記念イベントは今後も企画・実施される予定だが、現時点でその内容や時期は「未定」だという。